難病患者が引っ越しをした話。① ~前提知識みたいなこと~
はじめに
私たかまろは、就職を期に2020年3月、埼玉から東京に引っ越すこととなりました。「川越市たかまろう鉄道」というサークル名を名乗っておきながら当のサークル主は東京都江戸川区在住というややこしいことになってしまい、サークル名というのはもう少し様々な事情を考慮してつけるべきなのだろうなぁという若干の反省を抱えながら同人活動をおこなっております。
そんな話はさておき、私が引っ越しするにあたって非常に心配した点がありました。それは「私が難病患者である」ということです。本編で詳細に説明しますが、難病患者に対しては様々な支援が行政から施されており、治療による生活の負担が軽減できるようになっています。ではもし引っ越しにより居所が変わり、面倒を見てくれる行政の変更があった場合はどうなるのでしょう。各種申請をしなければならないという見当は皆さん付くとは思いますが、実際に「どこで」「何を」「いつ」やらなければならないかというと、そのような経験が何かしらのサイトにまとまっているケースは少なく、ほぼほぼ自力で一つずつ探していくのが現状でした。本誌ではそんな「難病患者の引っ越し」に焦点を当て、各種手続きや私の経験談を綴っていきたいと考えております。本誌を通して、多くの人が経験することのない難病患者の生活を少しでも感じ取ってもらえれば幸いです。
Chap.1 前提知識みたいなこと。
SLEとは?
SLEという単語を初めて聞いた人も多いかと思います。実際私が初めて診断を下されたときも「何じゃそりゃ…」という気分でした。微妙に語呂も悪いし。
全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus、以下「SLE」)とは、免疫系が自分自身の正常な細胞や組織に対しても反応をして攻撃してしまう「自己免疫疾患」の一つで、自身の免疫系によって全身の(=Systemic)様々な場所に対し多彩な症状を引き起こす疾患です。狼(=Lupus[ラテン語])に噛まれたような赤い斑点(=Erythematosus)を症状として呈することが多いことから、このような名前がつけられています。
中学生の時からの付き合いです
私がSLEと診断されたのは2010年12月のこと。学校での尿検査で蛋白尿が検出され再検査、転院、数々の診療科での診察や検査を経て発覚しました。比較的症状が重い状態であったため、SLEと診断されるとすぐ入院が決まり、自宅療養を含めると2ヶ月ほど学校へ行けない日々が続きました。退院後は自覚できるような症状もなく、経過観察と薬を処方してもらうために1~2ヶ月間隔での通院をしていました。
2017年12月、全身の倦怠感や37~38度程度の発熱が1ヶ月程度続くようになり病院に向かうと再燃*1傾向が見られるとのことで薬を増量し対応してもらうことに。こちらも2ヶ月ほどで症状は緩和し、現在も通院と投薬により治療を行っているところです。
難病患者の支援の数々
難病法(=難病の患者に対する医療等に関する法律)において「難病」とは「発病の機構が明らかでなく、かつ、治療方法が確立していない希少な疾病であって、当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるもの」を指します。この難病法により対象疾患として指定を受けた難病のことを「指定難病」と呼びます。私が現在治療を行っているSLEもこの指定難病の一つであり、難病法を根拠に行政から特定医療費が給付されます。この医療費給付についてざっと説明していきます。
特定疾患(指定難病)医療費助成制度
難病の患者に対する医療等に関する法律 第5条 (特定医療費の支給)都道府県は、支給認定(第七条第一項に規定する支給認定をいう。以下この条及び次条において同じ。)を受けた指定難病(難病のうち、当該難病の患者数が本邦において厚生労働省令で定める人数に達せず、かつ、当該難病の診断に関し客観的な指標による一定の基準が定まっていることその他の厚生労働省令で定める要件を満たすものであって、当該難病の患者の置かれている状況からみて当該難病の患者に対する良質かつ適切な医療の確保を図る必要性が高いものとして、厚生労働大臣が厚生科学審議会の意見を聴いて指定するものをいう。以下同じ。)の患者が、支給認定の有効期間(第九条に規定する支給認定の有効期間をいう。第七条第四項において同じ。)内において、特定医療(支給認定を受けた指定難病の患者に対し、都道府県知事が指定する医療機関(以下「指定医療機関」という。)が行う医療であって、厚生労働省令で定めるものをいう。以下同じ。)のうち、同条第三項の規定により定められた指定医療機関から受けるものであって当該支給認定に係る指定難病に係るもの(以下「指定特定医療」という。)を受けたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該支給認定を受けた指定難病の患者又はその保護者(児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第六条に規定する保護者をいう。以下同じ。)に対し、当該指定特定医療に要した費用について、特定医療費を支給する。
難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律)第5条に記載の通り、指定難病の患者は申請を行うことにより住民票を置く都道府県から特定医療費が受給されます。具体的には下図の通りで、所得に応じて自己負担額の上限が決まっており、原則として医療費の2割を自己負担額として窓口で支払い、月間で自己負担額が上限額を超えた場合は窓口等でそれ以上の徴収が行われないという仕組みになっています。基本的に指定難病に挙げられている疾患は治療が極めて困難であり、医療費も高額になるため、この制度により指定難病患者の医療費負担はかなり軽減されているというのが現状です。
この制度を利用するためには、指定難病の診断がついた時点で必要書類を準備し、保健所など指定の窓口に提出する必要があります。都道府県・指定都市による審査の後、支給認定を受けた患者には「特定医療費受給者証」と「自己負担上限管理票」が交付され、それらをもとに患者や医療機関は月額の自己管理額を把握、管理していきます。なお、支給認定に必要な診断書を作成できるのは「難病指定医」、医療費助成が受けられるのは「指定医療機関」にそれぞれ限られています。
市区町村による難病見舞金
上とは別に在住の市区町村によっては、特定医療費受給者証の所持や住民登録を条件に見舞金を受給しているところがあります。多くの自治体において支給方法は口座振込となっており、前述の特定医療費のように月間の医療費負担額に関わらず支給金額は一定であることが特徴です。支給金額については各自治体で個別に定められており、中には制度そのものがない自治体もあるので個別に確認する必要があります。
(続き:難病患者が引っ越しをした話。② ~実際に引っ越してみた~ - まろ鉄広報課)
参考文献(お世話になったサイトなど)
*1:病気の進行が止まっていた、または、軽快していたものが、再び進行し始めること。SLEをはじめ、多くの難病は治療法が確立されておらず完治させることが難しいため、このように症状がぶり返してしまうことが多々ある。